相続時精算課税制度は使うと得?損?──2024年改正で変わった、暦年贈与との分かれ道

相続時精算課税制度は使うと得か損かを示すアイキャッチ。相続人の子へ毎年110万円を渡すなら、2024年改正により暦年贈与よりも相続時精算課税のほうが相続税を多く減らせることを表す

親から子へ毎年110万円ずつ贈るなら、2024年の改正で相続時精算課税のほうが暦年贈与より得になりました。財産1億円・子2人・10年で減らせる相続税は、相続時精算課税なら約290万〜370万円です。

あなたの状況精算課税は得かこの記事の読み方
子へ毎年110万円ずつ渡したい得(暦年より有利)税額を試算
実家や土地を渡したい要注意(損しやすい)実家の注意点
2,500万円を一度に渡したい相続税は減らないよくある誤解
孫や長期で大きく渡したい暦年課税も比べる使い分け

※ 金額はすべて概算です。相続人は子のみ(配偶者なし)・財産は現金とした試算で、実際の税額は財産の中身で変わります。

暦年贈与そのものをくわしく知りたい方は、生前贈与で相続税はいくら減るかの記事もあわせてご覧ください。すでに使うと決めた方は、手続きへお進みください。

この記事を読むと:

  1. 相続時精算課税で減らせる相続税が計算機でわかります
  2. 2024年改正で暦年贈与とどちらが得かを判断できます
  3. 実家・土地の贈与で損しない見極めがわかります

そもそも、どんなときに得する制度?

相続時精算課税制度の全体像を示す図。親から子へまとまった財産を早めに渡せること、2,500万円まで贈与税がかからないこと、2024年から年110万円の基礎控除が加わったことの3点を表す
図1:相続時精算課税は「大きな財産を早めに渡す」制度。2024年から年110万円の基礎控除が加わった。

ひとことで言うと──相続時精算課税は、親(60歳以上)から子や孫へ、まとまった財産を早めに渡せる制度です。2024年の改正で「毎年110万円までは相続税もかからない」ようになり、コツコツ渡す人にも得な制度に変わりました。

ポイント中身
得する場面値上がり・収益物件を早めに渡す
よくある誤解2,500万円分は相続税が減らない
確実に減る部分年110万円の基礎控除(2024年〜)

相続時精算課税ってどんな制度?

相続時精算課税は、生前の贈与にかかる税金を「相続のときにまとめて精算する」渡し方です。累計2,500万円までは贈与税がかからず、超えた分は一律20%です。

ただし、非課税で渡した分は消えてなくなるわけではありません。相続のときに、その財産を相続財産に足し戻して相続税を計算します。つまり2,500万円の部分は、税金を「今は払わず、あとでまとめて払う」しくみです。

「2,500万円まで非課税」の落とし穴

「2,500万円まで非課税」と聞くと、相続税がまるごと減ると感じます。しかし、そうではありません。特別控除(=2,500万円までの非課税枠)で渡した分は、相続のときに足し戻されて相続税がかかります。

相続税が確実に減るのは、2024年に加わった年110万円の基礎控除の部分だけです。年110万円分は相続財産に足し戻されず、相続税がかからずに渡せます。この違いが、制度を使うかどうかの分かれ道になります。

誰が使える?(対象になる人)

渡す人は、贈与した年の1月1日に60歳以上の父母か祖父母です。もらう人は、同じ日に18歳以上の子か孫です。年齢と続柄の条件を満たさないと使えません。

暦年贈与と比べて、税金はどう変わる?

相続時精算課税と暦年課税を比べた対比図。相続人の子へ年110万円を渡すと、相続時精算課税では全額が相続財産から外れるが、暦年課税では亡くなる前7年分が相続財産に足し戻されることを示す
図2:同じ年110万円でも、精算課税は相続財産から外れ、暦年課税は7年分が足し戻される。

ひとことで言うと──相続人の子へ毎年110万円ずつ渡すなら、いまは精算課税のほうが相続税を多く減らせます。財産1億円・子2人・10年なら、減らせる相続税は精算課税で約290万〜370万円です。

相続時精算課税と暦年課税、減らせる相続税は?(概算)
相続時精算課税なら:
暦年課税なら:
差し引き:
※ 概算です。相続人は子のみ(配偶者なし)、財産はすべて現金、贈与を受けるのは子全員、戻される期間は7年として計算しています。実家など不動産は別の注意点があります(本文でくわしく)。
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自分の家ではどちらが得か、金額で確かめたい方へ

財産の中身、家族の年齢、不動産の割合。この3つで有利な渡し方は変わります。相続に強い税理士が、いまの状況に合う渡し方を一緒に整理します。

渡し方と財産額で見る早見表

子2人へ、年110万円ずつ10年渡した場合の目安です。金額は減らせる相続税を表します。

財産精算課税で減らせる暦年課税で減らせる差(精算が得)
5,000万円約70万〜90万円約70万〜90万円ほぼ同じ
1億円約290万〜370万円約110万〜150万円約180万〜230万円
2億円約590万〜730万円約230万〜290万円約360万〜450万円
3億円約790万〜970万円約300万〜380万円約480万〜590万円

※ 相続人は子2人のみ(配偶者なし)、財産は現金、戻される期間は7年で計算した概算です。財産に不動産が多い場合や配偶者がいる場合は結果が変わります。

なぜ精算課税のほうが得なのか

理由は「足し戻し」の有無です。足し戻し(=生前贈与加算)とは、亡くなる前の一定期間に渡した財産を、相続財産に足し戻して相続税を計算するしくみです。

暦年贈与は亡くなる前7年分が足し戻されますが、精算課税の年110万円は足し戻されません。だから同じ年110万円でも、精算課税のほうが相続財産を多く減らせます。

財産が少ないと差は小さい

早見表の財産5,000万円では、精算課税と暦年課税の差はほとんどありません。理由は、相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×人数)に財産が近いからです。もともとの相続税が小さいと、どちらでも減らせる額は近くなります。暦年贈与との全体の比べ方は、生前贈与の記事でもくわしく説明しています。

2024年の改正で、何が変わった?

2024年改正の前後を比べた図。改正前は相続時精算課税に毎年の非課税枠がなかったが、改正後は年110万円の基礎控除が新設され、その分は相続財産に足し戻されないことを示す
図3:2024年から精算課税に年110万円の基礎控除が新設。この分は相続財産に戻らない。

ひとことで言うと──2024年から、相続時精算課税に「毎年110万円の基礎控除」が加わりました。この110万円は相続財産に足し戻されないため、コツコツ渡すなら暦年贈与より有利になりました。

項目2023年まで2024年から
年110万円の非課税枠なしあり
110万円分の相続税あとで全額かかるかからない
少額の贈与税の申告毎年必要110万円以下は不要

何が新しくなった?(年110万円の基礎控除)

2023年まで、相続時精算課税には毎年の非課税枠がありませんでした。渡した分はいずれ全額、相続財産に足し戻されていました。2024年からは、毎年110万円までなら贈与税がかからず、相続財産にも足し戻されません。

この年110万円は、暦年贈与の110万円とは別のあつかいです。精算課税の年110万円は、亡くなる直前に渡しても相続財産に戻りません。ここが今回の改正でいちばん大きく変わった点です。

暦年贈与は逆に不利になった

同じ2024年の改正で、暦年贈与は足し戻しの期間が3年から7年へ延びました。亡くなる前7年分の贈与は、相続財産に足し戻されます。長く渡せる人ほど、暦年贈与の使いにくさが増したことになります。

7年になるのはいつから?(経過措置)

足し戻し7年は、いきなり全部に適用されるわけではありません。段階的に延びていきます。2026年中に相続が起きる場合は、足し戻しは3年分にとどまります。7年フルになるのは、2031年以降に起きる相続からです。計算機と早見表は、7年に完全に移った前提の概算です。

実家や土地の贈与に使って大丈夫?

精算課税で渡すのに向くものと向かないものを○×で示した判定図。現金・収益物件・値上がり資産は向くが、実家の土地は小規模宅地等の特例が使えなくなるため向かないことを表す
図4:現金・収益物件・値上がり資産は向く。実家の土地は特例が使えず慎重に。

ひとことで言うと──実家の土地を相続時精算課税で生前に渡すと、損することが多いです。相続で受け取れば評価額を8割減らせる特例が、生前贈与では使えなくなるためです。

渡すもの精算課税で渡すのは理由
現金・預金○ 使いやすい評価額が変わらない
実家(自宅の土地)× 慎重に8割減の特例が使えない
収益物件(賃貸)○ 向く以後の家賃が子のものに
値上がりしそうな資産○ 向く相続時は低い贈与時の評価

実家を渡すと「8割減」が使えなくなる

実家の土地には、小規模宅地等の特例(=親と同居していた自宅の土地などの評価を8割減らせる制度)があります。ただし、これは相続や遺言で受け取った土地が対象です。

実家の土地は、相続で受け取れば評価額を8割まで減らせる特例が使えます。生前贈与で受け取ると、この特例は使えません。8割減を捨ててまで生前に渡す意味があるかを、必ず先に確かめてください。土地の評価額の調べ方は、相続税の評価額の記事で説明しています。

不動産は渡すだけで税金が増える

不動産を生前贈与すると、名義を変えるための税金が相続より高くつきます。登記のときにかかる登録免許税は、相続なら0.4%ですが、贈与では2.0%です。不動産取得税も、相続ならかかりませんが、贈与ではかかります。現金にはない出費です。

収益物件・値上がり資産は向いている

一方で、家賃が入る賃貸物件や、これから値上がりしそうな資産は、精算課税に向いています。早めに渡せば、その後の家賃は子のものになり、親の財産として積み上がりません。値上がりしそうな資産も、贈与時の低い評価額で固定できます。

使うべき人・避けるべき人は?

ひとことで言うと──相続人の子へ年110万円を長く渡せる人、値上がり・収益資産を早く移したい人は向いています。実家を渡したい人、あとで暦年課税に戻すかもしれない人は慎重にしましょう。

向いている人避けたほうがよい人
子へ毎年110万円を長く渡したい実家(自宅の土地)を渡したい
収益物件・値上がり資産を早く移したい孫にも柔軟に渡したい
まとまった額を今すぐ渡す事情がある将来、暦年課税に戻すかも

向いている人の特徴

相続人である子へ、年110万円をコツコツ渡せる人は向いています。年110万円は相続財産に戻らないため、渡した年数のぶんだけ確実に相続税が減ります。家賃が入る物件や値上がりしそうな資産を早く移したい人にも向いています。

避けたほうがよい人の特徴

実家の土地を渡したい人は慎重にしましょう。8割減の特例を失う損のほうが大きくなりがちです。孫など相続人でない人へ渡したい人も、暦年贈与のほうが有利な場合があります。相続人でない人への暦年贈与は、足し戻しの対象にならないためです。

一度選ぶと戻せない(不可逆)

一度選ぶと、同じ人からの贈与は生涯、暦年課税に戻せません。ただし相手ごとの選択なので、父からは精算課税・母からは暦年課税、という分け方はできます。迷うときは、戻せないことを踏まえて決めてください。

使うと決めたら、何をすればいい?

ひとことで言うと──初めて使う年に「相続時精算課税選択届出書」を、贈与を受けた翌年の3月15日までに税務署へ出します。この届出を忘れると、制度そのものが使えません。

順番すること期限
1財産をもらう(贈与を受ける)
2選択届出書と贈与税の申告書を出す翌年3月15日まで
3戸籍などの必要書類を添える同上
42年目以降は110万円超なら申告毎年3月15日

選択届出書は初めての年だけ

「相続時精算課税選択届出書」は、その人からの贈与で初めて制度を使う年に一度だけ出します。翌年の2月1日から3月15日までが期限です。2年目からは、この届出はいりません。

必要な書類と、110万円以下でも必要なこと

届出書には、もらう人の戸籍など、続柄や年齢を確かめる書類を添えます。初めての年は、贈与額が110万円以下でも届出が必要です。届出を出さないと、あとから精算課税を選べなくなるので注意してください。

届出のタイミングや書類でつまずきたくない方へ

選択届出書は、初めての年の期限を逃すと使えません。相続に強い税理士が、渡し方の設計から届出・申告まで一緒に進めます。

よくある質問

ひとことで言うと──読者からよく寄せられる6つの疑問に、短くお答えします。迷いやすい「2,500万円の非課税」と「暦年課税に戻せるか」から確認してください。

2,500万円まで非課税なら得ですよね?

それ自体では相続税は減りません。特別控除で渡した分は、相続のときに贈与時の価額で相続財産へ足し戻されます。確実に相続税が減るのは、年110万円の基礎控除の部分だけです。

年110万円なら暦年贈与でもいいのでは?

相続人である子へ渡すなら、いまは精算課税の年110万円のほうが有利です。暦年贈与の110万円は亡くなる前7年分が足し戻されますが、精算課税の110万円は足し戻されないためです。

途中で暦年課税に戻せますか?

戻せません。その贈与者からの贈与は、生涯すべて精算課税になります。ただし相手ごとの選択なので、父と母で分けることはできます。

実家をもらうのに使うべきですか?

多くの場合は損になりやすいです。実家の土地は、相続なら8割減の特例が使えますが、生前贈与では使えません。登録免許税や不動産取得税のコストも増えます。

贈与税は本当に0円になりますか?

累計2,500万円までは0円で、超えた分は一律20%です。加えて2024年からは年110万円の基礎控除ができ、110万円以下なら申告も不要になりました。

孫に使えますか?

18歳以上の孫なら使えます。ただし孫が財産を受け取ると相続税が2割増しになるため、渡す前に税理士に確認しましょう。

この記事のまとめ

  1. 確実に減るのは年110万円分:2,500万円の特別控除は相続財産に足し戻されます
  2. 子へのコツコツ贈与は精算課税が得:暦年の110万円は7年分戻りますが、精算課税は戻りません
  3. 実家の土地は慎重に:8割減の特例が使えず、名義変更の税金も増えます
  4. 一度選ぶと戻せない:相手ごとに、戻せないことを踏まえて決めましょう

出典・根拠:国税庁タックスアンサー No.4103(相続時精算課税の選択。贈与者は贈与の年の1月1日において60歳以上の父母または祖父母、受贈者は同日において18歳以上の子または孫。特別控除額は累計2,500万円、超過分は一律20%、相続時に相続税で精算し納めた贈与税は相続税額から控除。令和6年1月1日以後の贈与から年110万円の基礎控除を創設し、相続税の課税価格に加算するのは基礎控除額を控除した後の残額。基礎控除額以下なら贈与税の申告は不要だが初年度の相続時精算課税選択届出書は必要。一度選択すると同じ贈与者からの贈与は暦年課税に戻せない)/No.4161(相続開始前に贈与があった場合の加算。令和6年1月1日以後の暦年課税の贈与は加算対象期間が相続開始前7年以内。相続開始日が令和8年12月31日までは3年以内、令和9年1月1日から令和12年12月31日までは令和6年1月1日から死亡の日までの間、令和13年1月1日以後は7年以内。相続開始前3年以内より前の延長4年分は総額100万円まで加算しない。加算された贈与財産に係る贈与税額は相続税額から控除)/No.4408(贈与税の計算と税率。暦年課税の基礎控除額は年110万円。特例贈与財産の特例税率は基礎控除後200万円以下10%ほか)/No.4124(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例。相続または遺贈により取得した宅地等が対象で、特定居住用宅地等は330平方メートルまで80%減額。生前贈与により取得した宅地は対象外)/No.4155および No.4152(相続税の税率と計算。基礎控除額は3,000万円+600万円×法定相続人の数。法定相続分に応ずる取得金額1,000万円以下10%、3,000万円以下15%・控除50万円、1億円以下30%・控除700万円ほか)/東京都主税局「不動産取得税」(相続による取得は非課税、贈与による取得は課税。宅地等の課税標準額は令和9年3月31日までの取得で価格の2分の1)/登録免許税は所有権移転登記につき相続0.4%、贈与2.0%。計算機と早見表の数値はすべて概算です。相続人は子のみ(配偶者なし)、財産はすべて現金、贈与を受けるのは子全員、加算対象期間は7年という前提で計算しています。配偶者がいる場合、不動産の割合が大きい場合、贈与する相手を孫など相続人以外に広げる場合は結果が変わります。実際の税額は必ず税理士にご確認ください。

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