相続した不動産の売却は仲介?買取?── 売る流れと種類別の注意点

相続した不動産(実家・土地・マンション)を売るときは、ふつうの売却の前に2つの手続きが加わります。名義を自分に変えることと、だれが売るかを決めることです。そのうえで、高く売れる「仲介」か、早く売れる「買取」かを選びます。買取は相場の6〜8割の値段になり、手取りは2〜3割下がりますが、数日から数週間で現金に換えられます。
※ この記事の金額はすべて概算です。仲介は相場で売れた場合、買取は相場の6〜8割で売れた場合の目安で、費用は仲介手数料と印紙代のみを計上しています。実際の金額は物件や会社、取得費や特例の条件で変わります。
そもそも相続税がいくらかかるかを先に知りたい方は、相続税の計算シミュレーションをご覧ください。売ったあとの手取りや税金だけを詳しく知りたい方は、税金と手取りの要点へお進みください。
この記事を読むと:
- 相続した不動産を売るために、何を先に済ませるべきかがわかります
- 高く売る仲介と早く売る買取で、手取りがどれだけ変わるかを計算機で試せます
- 実家・土地・マンションで違う注意点と、つまずきやすい落とし穴がわかります
相続した不動産は、何から売り始める?

ひとことで言うと──まず名義を自分に変えることから始めます。相続した不動産の売却は、ふつうの売却より前に2つの手続きが多く、そこを越えてはじめて売りに出せます。
| 順番 | すること | 相続だけの手続き? |
|---|---|---|
| 1 | 名義を相続人に変える | はい |
| 2 | だれが売るかを決める | はい |
| 3 | 査定を受ける | いいえ |
| 4 | 売却活動・売買契約 | いいえ |
| 5 | 引き渡し・確定申告 | いいえ |
名義が親のままでは、そもそも売れない
不動産を売るときは、代金と引きかえに名義を買い手へ移します。この手続きは、いまの名義人からしかできません。名義が亡くなった方のままでは、買い手へ引き渡せないため、売ること自体ができません。まず名義を相続人へ変える手続き(相続登記)を済ませます。
相続人が一人なら手続きは比較的簡単です。複数いる場合は、だれがその不動産をもらうかを先に決めます。この話し合いを遺産分割協議といい、決まった内容を書面にして全員が実印を押します。
相続登記は2024年4月から義務になった
名義を変える相続登記は、2024年4月から義務になりました。不動産を相続したと知った日から3年以内に申請しなければなりません。正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料の対象になります。売るつもりがなくても、この義務はかかります。
注意したいのは、2024年4月より前に起きた相続も対象になる点です。何十年も名義が変わっていない実家も、この義務から外れません。この場合の期限は2027年3月31日です。売ろうとして名義を調べたら、祖父母の代のままだった、というケースは珍しくありません。
売る準備として書類を3つそろえる
売却の相談を始める前に、次の3つを探しておくと話が早く進みます。とくに一番下の契約書は、あとで税金を大きく左右します。
- 権利証または登記識別情報:親が不動産を手に入れたときに受け取った書類です
- 固定資産税の納税通知書:毎年春に届きます。土地と建物の面積がわかります
- 親が買ったときの売買契約書:買った値段の証拠になり、税額を左右します
ここまでが売りに出す前の準備です。名義を変え、売る人を決め、書類がそろえば、いよいよ「どう売るか」を選ぶ段階に入ります。
仲介で売る?買取で売る?

ひとことで言うと──高く売りたいなら仲介、早く確実に売りたいなら買取です。買取は相場の6〜8割ほどになり、手取りは2〜3割下がる代わりに、数日から数週間で現金に換えられます。
仲介は高く売れるが、時間がかかる
仲介は、不動産会社に買い手を探してもらう売り方です。買い手は一般の個人が多く、相場に近い値段で売れます。もっとも高く売れる可能性が高いのが仲介です。
その代わり、買い手が見つかるまで待つ必要があります。売り出してから引き渡しまで、おおむね3〜6か月、長ければそれ以上かかります。内覧の対応も必要です。売り急ぐと値下げを重ねることになり、結局は買取と変わらない値段になることもあります。時間に余裕があるときに向いた売り方です。
買取は早くて確実だが、値段は下がる
買取は、不動産会社そのものに直接買ってもらう売り方です。会社が買い手なので、買い手を探す時間がいりません。査定に納得すれば、数日から数週間で現金に換えられます。
値段は相場の6〜8割ほどに下がります。この差が、早さと確実さの代金です。加えて買取には、いくつかの利点もあります。仲介手数料がかからず、内覧の準備もいりません。引き渡し後に欠陥が見つかっても、責任を問われない契約にできることが多いのも特長です。近所に売り出しを知られたくないときにも向いています。
相続では買取が向く場面が多い
相続した不動産では、次のような事情から買取が選ばれることがよくあります。手取りは下がっても、早さと手間の少なさを優先する場面です。
- 早く分けたい:売って現金にし、相続人で分けたい(換価分割)
- 遠方で管理できない:空き家の管理に通えず、傷む前に手放したい
- もめたくない:内覧や値下げ交渉を続けず、早く結論を出したい
下の早見表は、戸建て(実家)を書類なし・親の所有5年超で売った場合の目安です。相場が高いほど、仲介と買取の差は大きくなります。
| 相場(仲介の値段) | 仲介の手取り | 買取の手取り |
|---|---|---|
| 1,000万円 | 約750〜800万円 | 約550〜580万円 |
| 2,000万円 | 約1,510〜1,600万円 | 約1,100〜1,160万円 |
| 3,000万円 | 約2,280〜2,400万円 | 約1,650〜1,740万円 |
| 5,000万円 | 約3,800〜4,000万円 | 約2,750〜2,900万円 |
仲介と買取、どちらが自分に合うか迷う方へ
手取りの差、売れるまでの時間、相続人の事情。どこを優先するかで答えは変わります。相続に強い専門家が、あなたの物件の条件から一緒に整理します。
実家・土地・マンションで売り方はどう違う?

ひとことで言うと──種類ごとに注意点が違います。戸建ては解体と空き家の特例、土地は境界と測量、区分マンションは管理費の精算が、それぞれの分かれ目になります。
| 種類 | 主な論点 | 気をつけること |
|---|---|---|
| 戸建て(実家) | 空き家の特例・解体 | 特例は条件が細かい |
| 土地(更地) | 境界・測量・農地 | 時間とお金がかかる |
| 区分マンション | 管理費・修繕積立金 | 特例は使えない |
戸建て(実家):解体するかと、空き家の特例
親が住んでいた戸建てで悩むのが、古い家をそのまま売るか、取り壊して更地にして売るかです。更地は買い手が使い道を考えやすい一方、解体費が100万円以上かかり、更地にすると土地の固定資産税の軽減が外れます。
判断の鍵になるのが、空き家の3,000万円控除です。親が一人で住んでいた古い家を相続して売る場合、もうけから最大3,000万円を引ける特例があります。ただし条件が細かく、耐震工事をするか取り壊して売ることが求められます。この特例を使えるかどうかで、解体するかの答えも変わります。詳しい条件は税金の章で触れます。
土地(更地):境界の確定と、農地の許可
土地を売るときにまず問題になるのが、隣地との境界です。境界があいまいなままだと買い手が不安に感じ、確定測量を求められることが多くあります。確定測量には数十万円の費用と数か月の時間がかかります。相続した土地は境界が未確認のことも多いので、早めに要否を確認してください。
もう1つ、相続した土地が農地の場合は特別な手続きが必要です。農地を売るには、原則として農業委員会の許可がいります。宅地として売るには農地から宅地への転用の手続きも必要で、場所によっては転用が認められないこともあります。農地が含まれるときは、農地に詳しい不動産会社に早めに相談してください。
区分マンション:管理費の精算と、使えない特例
相続したマンションの一室を売るときは、管理費と修繕積立金の精算が必要です。引き渡しの日で日割りにして清算します。親が滞納していた分があれば、引き渡しまでに清算しておく必要があります。滞納は買い手に引き継がれるため、売買の話が止まる原因になります。
税金の面で覚えておきたいのは、区分マンションでは空き家の3,000万円控除が使えないことです。この特例は一戸建てなどが対象で、区分所有のマンションは外れています。その代わり、親の購入時の契約書があれば取得費が下がり、相続税を払っていれば取得費に足せる特例が使えます。マンションは比較的買い手がつきやすく、買取にも応じてもらいやすい種類です。
税金と手取りはどうなる?
ひとことで言うと──手取りは「売値 − 売る費用 − 税金」です。税金は、親が買ったときの書類と使える特例で数百万円変わります。ここでは要点だけをまとめ、詳しい計算は別の記事に譲ります。
| 決め手 | 手取りへの効き方 |
|---|---|
| 持っていた期間 | 5年超で税率が約半分 |
| 買ったときの書類 | あると税金が大きく減る |
| 使える特例 | 税金が0円になることも |
税率は持っていた期間で決まる
もうけにかかる税金の割合(税率)は2種類あります。持っていた期間が5年より長ければ20.315%、5年以下なら39.63%です。ほぼ2倍の差があります。
ここで多くの方が誤解します。「相続したばかりだから期間は短い」と考えてしまうのです。しかし相続の場合、期間は亡くなった方が買った日から数えます。親が20年持っていた家なら、相続した翌月に売っても低いほうの税率です。親が買って5年たたずに亡くなった場合だけ、高いほうの税率になります。
買ったときの書類があるかで、税金が数百万円変わる
もうけは「売値 − 買った値段 − 売る費用」で計算します。この「買った値段」を取得費といいます。親が買ったときの契約書が見つからないと、取得費は売値の5%として計算することになります。
売値のほとんどがもうけとみなされ、税金は大きく増えます。契約書が見つかれば、この金額は大きく下がります。実家の権利証の袋、仏壇の引き出し、金融機関の貸金庫。心当たりのある場所は、売る前にすべて確認してください。書類を1枚探すことが、いちばん確実な節税になります。
使える特例と、詳しい計算は別記事へ
税金を下げる特例は主に2つあります。1つは、親が一人で住んでいた古い家に使える空き家の3,000万円控除です。もう1つは、相続税を払った人が、その一部を取得費に足せる制度です。この2つは、どちらか一方しか使えません。
手取りが実際にいくらになるか、どの特例が有利かは、条件によって細かく変わります。売値ごとの税金の早見表や、条件を選ぶだけで手取りを試せる計算機もあります。詳しくは相続した家の売却で手取りはいくら?で用意しています。売ったあとの金額が気になる方は、あわせてご覧ください。
相続の売却でつまずく3つの落とし穴

ひとことで言うと──つまずくのはたいてい同じ3か所です。名義をそのままにする、書類を探さない、1社だけで決める。この3つを避けるだけで大きな失敗は防げます。
| やりがちなこと | どうなる | 正しい動き |
|---|---|---|
| 名義は親のまま進める | 契約直前で止まる | 先に相続登記 |
| 書類を探さず売る | 税金が数百万円増 | 契約書を探す |
| 1社の査定で決める | 安く売って損 | 複数社で比べる |
落とし穴1:名義を変えずに話を進める
売る気になって不動産会社に相談し、買い手まで見つかったのに、名義が親のままで契約できない。これがいちばん多いつまずきです。名義変更(相続登記)には、遺産分割の話し合いや戸籍集めで1〜2か月かかることもあります。売ると決めたら、いちばん先に名義変更に着手してください。
落とし穴2:親が買ったときの書類を探さない
取得費のもとになる契約書を探さないまま売ると、取得費は売値の5%として扱われ、税金が数百万円増えることがあります。急いで売ったあとに契約書が出てきても、あとから取り戻すのは簡単ではありません。書類探しは、売り出す前に必ず済ませておく作業です。
落とし穴3:1社の言い値で決める・期限を逆算しない
最初に相談した1社の査定額をうのみにすると、相場より安く売ってしまうことがあります。仲介でも買取でも、複数の会社に査定を頼み、金額とその根拠を比べてください。査定額が高い会社が良い会社とは限りません。
あわせて、期限から逆算して動くことが大切です。空き家の特例は相続から3年目の年末まで、相続税を取得費に足す特例は3年10か月までです。解体や測量には数か月かかるため、期限の直前に動き出すと間に合いません。急いで売りすぎると、親の自宅の土地を8割引きで評価できる小規模宅地の特例が使えなくなる場合もあります。順番と時期の見極めが要になります。
売る順番と期限を、いちど整理したい方へ
名義変更、書類探し、査定、特例の期限。どれを先にやるかで手取りも間に合うかも変わります。相続に強い専門家が、あなたの状況に合わせた段取りを一緒に組みます。
よくある質問
ひとことで言うと──相続した不動産の売却でよく聞かれる6つの質問に答えます。気になるものだけ読んでください。
仲介と買取は何が違いますか?
売る相手が違います。仲介は不動産会社に買い手を探してもらい、見つかった一般の人へ売る方法です。相場に近い高い値段で売れる代わりに、3〜6か月ほどかかります。買取は不動産会社そのものに直接買ってもらう方法です。数日から数週間で現金化でき内覧もいりませんが、値段は相場の6〜8割ほどに下がります。相続では、早く分けたい・遠方で管理できない・もめたくないといった事情から買取が選ばれることが多くあります。
相続したマンションでも、空き家の3,000万円控除は使えますか?
使えません。この控除は一戸建てなどが対象で、区分所有のマンションは外れているためです。ただし、親が買ったときの契約書があれば取得費が下がり、相続税を払っていれば取得費に足せる特例が使える場合があります。マンション特有の注意点として、管理費や修繕積立金の精算と、滞納があれば引き渡しまでの清算が必要です。
遠方の実家で現地に行けません。それでも売れますか?
売れます。手続きは委任状や郵送、オンラインでも進められます。現地に行く回数を減らしたいなら、地域の会社に仲介を頼むか、内覧のいらない買取を選ぶ方法があります。ただし相続した空き家は、放置すると傷んで価値が下がります。管理できないまま持ち続けるより、早めに売るほうが手取りを守れることが多いです。まずは現地の会社に査定を頼んでください。
相続人が複数います。全員で売るのですか?
共有のまま売る場合は、全員が売主になり、全員の同意と署名が必要です。一人でも反対すれば売れません。よく使われるのが換価分割で、不動産をいったん売ってお金に換え、代金を相続人で分けます。現金は1円単位で分けられるため不公平が生まれにくい方法です。もうけにかかる税金は、それぞれの持ち分の割合で分けて計算します。
古い家は解体してから売るべきですか?
一概には言えません。更地にすると買い手は使い道を考えやすくなりますが、解体費が100万円以上かかり、土地の固定資産税の軽減も外れます。古い家を残して「古家付き土地」として売る方法もあります。分かれ目になるのが空き家の3,000万円控除で、この特例は耐震工事か取り壊しが条件です。迷う場合は、解体前に両方の売り方で査定を頼んでください。
土地を売るのに測量は必ず必要ですか?
法律上、必ず必要というわけではありません。ただし実際の売買では、境界をはっきりさせる確定測量を買い手から求められることが多くあります。境界があいまいだと引き渡し後のトラブルにつながるためです。確定測量には数十万円と数か月かかります。相続した土地は境界が未確認のことも多いので、売ると決めたら早めに要否を相談してください。
まとめ
ひとことで言うと──相続した不動産の売却は、名義を変えることから始まります。次に高く売る仲介か早く売る買取かを選び、種類ごとの注意点に対応します。
今日からの4ステップ
- 名義を変える:だれがもらうかを話し合い、相続登記をします。2024年4月から3年以内の申請が義務です
- 書類を探す:親の売買契約書・権利証・固定資産税の通知書。契約書の有無で税金が数百万円変わります
- 売り方を選ぶ:高く売るなら仲介、早く確実に売るなら買取。買取は手取りが2〜3割下がります
- 複数の会社に査定を頼む:金額とその根拠を比べます。期限から逆算し、解体や測量は先に動きます
3つだけ覚えて帰ってください。1つめ、名義を変えないと売れません。2つめ、親が買ったときの書類を探すことが、いちばん確実な節税です。3つめ、高く売るか早く売るかは、あなたの事情しだいで正解が変わります。
出典・根拠:法務省「相続登記の申請義務化について」(令和6年4月1日施行。所有権取得を知った日から3年以内の申請義務、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料。施行日前の相続は令和9年3月31日まで)/国税庁タックスアンサー No.3208(長期譲渡所得の税額の計算。所得税15%・復興特別所得税は所得税額の2.1%・住民税5%=合計20.315%。譲渡した年の1月1日時点で所有期間5年超が長期)/No.3211(短期譲渡所得。合計39.63%)/No.3270(相続や贈与により取得した土地建物の取得費と取得の時期。被相続人の取得時期・取得価額を引き継ぐ)/No.3258(取得費が分からないとき。売った金額の5%を取得費にできる)/No.3306(被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例。昭和56年5月31日以前建築・区分所有建物でない・相続開始の直前に被相続人が一人で居住・売却代金1億円以下・耐震基準適合または取壊し・相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで・令和9年12月31日までの譲渡が対象。取得費加算の特例との併用不可)/No.3267(相続財産を譲渡した場合の取得費の特例。相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡=相続開始から実質3年10か月)/No.4124(小規模宅地等の特例。特定居住用宅地等は330㎡まで80%減。配偶者以外の取得者には相続税の申告期限までの保有継続が要件)/国土交通省「宅地建物取引業者が受けることができる報酬の額」(媒介報酬の上限は売買価格400万円超で価格の3%+6万円(税抜)。800万円以下の低廉な空家等は売主から税込33万円まで)/国税庁タックスアンサー No.7108(不動産譲渡契約書の印紙税軽減措置。令和9年3月31日まで。1,000万円以下は5千円、1,000万円超5,000万円以下は1万円)/農林水産省「農地の売買・貸借・相続に関する制度」(農地の権利移動には農地法第3条の許可、宅地等への転用を伴う場合は第5条の許可が必要)。買取価格の水準(相場のおおむね6〜8割)は不動産取引の一般的な目安であり、物件・会社により変動します。計算機・早見表の数値はすべて概算です。買取価格は相場に対し戸建て70%・区分マンション75%・土地72%・古家付き土地65%と仮定し、費用は仲介手数料の上限と印紙代のみを計上しています。実際の税額は取得費、特例の適用可否、共有持ち分によって変わります。
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